2012年 11月 26日
12月の声を聞く頃、必ず思い出す人。 私がまだ幼かった頃。 祖父の仕事の関係で知り合ったそのご婦人はロシアの方で、 この土地に移り住んで40年近く、この町の大切な住人だった。 毎年クリスマスが終わり年の瀬に人々が忙しなく行き来する頃、祖父のついたお餅をお正月用として、 姉弟たちと手をつないで届けに行くのが毎年恒例のこととなっていた。 歩いて数分しかかからないそのご婦人の住む家は、木立から差す木漏れ日がよく似合う洋館風の佇まいで、 お天気がいいと窓枠には何匹もの猫がひなたぼっこをしながら、 客人を気にすることもなくのんびりとくつろいでいた。 玄関を入るとそこは広い客間になっており、正面には大きな暖炉があった。 暖炉の上の壁には、子供の背丈からすると見上げるほどの大きな肖像画が堂々とかかげてあり、 子供ながらに自分の暮らす "生活" という表現がぴったりな日々とは、かけ離れた外国の世界を感じた。 いつも決まって彼女はLady Bordenのコーヒー味のアイスクリームとかたいロシアンケーキをカットし、 コーラを注いでテーブルに用意してくれた。 今でもよく憶えているのは、彼女の髪がシルバーグレーでとても細くやわらかそうだったこと、 そして透き通るような白い肌に、日本人には決して似合わないであろう真っ赤な口紅が 幼心にとてもとても印象的だったこと。 家族の思い出話のなかで、 彼女は結婚をしておらず、一緒に暮らしていたその男性はご主人ではなかったと知ったのは ごく最近だった。 それでもご夫婦だと思っていた2人が冬の雪道の中、 しっかりと手を握り寄り添い歩く姿は、今もこの目に焼きついている。 そして私の記憶の中、彼らの姿は冬と共にしか思い出せない。 帰り際、決まって彼女は、 私たち姉弟に一つづつ大きなお菓子の缶を持たせてくれた。 紫色のフタのその缶にはぐるりと一周、英国調の馬車の絵が描かれており、 中には色とりどりのフィルムに包まれたチョコレートやキャンディーが溢れんばかりに入っていた。 帰り際、少し痩せて乾いたその手が私たちの小さな手を順番に握りながら "また遊びに来てくださいね"と丁寧に言った。 まるで暖炉の底で残り火を湛える薪のように、やわらかな暖かさを秘めたその手のぬくもりを忘れない。 私は今、その決して大きくはなかった彼女の手を包んであげられるほどに成長した。 彼女は今、横浜外人墓地に眠る・・・ Aloha Aina
by aloha-aina-life
| 2012-11-26 16:15
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